2024.06.20あらたか
あ、カエルが鳴いている――庭の緑が雨に打たれていっそう鮮やかに輝きだす頃、hanare宝塚(小規模多機能型居宅介護)のフロアに面する庭からはカエルの声が響くようになりました。田んぼのような合唱ではありませんが、あちらからコロコロ、こちらからケロケロとのんびりとひびく歌声に、夏が近いことを知らせてくれます。
そんなある日のフロアでは、利用者のみなさまがなにやら一生懸命作業をしていました。色とりどりの折り紙をちぎって貼って、緑の葉っぱをつけたらアジサイの完成です。さっそく壁に貼ると殺風景だった壁がいっきに華やかになりました。
そんな様子を見ていたIさまが、なにやら紙にすらすらと鉛筆を走らせていました。そこには五七五にまとめられたアジサイの一句が。最近hanareの利用を始められたIさまは、フロアで本やアルバムを一人でご覧になって過ごす姿が多くみられていました。そんなIさまの句を見たスタッフが思わず「すごいですね」と感心すると、目を細めたIさまは筆ペンに持ち替えて一つの作品に仕上げられました。
味のある完成されたその文字は実は利き手で書かれたものではありません。現役時代に発症した脳梗塞の後遺症により利き手で文字を書くことはできないのです。お仕事の佳境で発症したと聞き、さぞショックだったでしょうとお尋ねすると、「いや、じゃあリハビリをがんばろうと思って、すぐ左手で書く練習をはじめたよ」とのこと。
若いころは海外に拠点をおきオーストラリア大陸を縦断したり、スイスのアルプスでスキーを始めたりと、何かとアクティブなIさまは、俳句にも精通され、現在も雑誌へ投稿も続けています。疾患により障害を負っても前向きなIさまに、その生き方の秘訣をお聞きしました。Iさまは「人生を面白がることだね」と即答。やりたいことを言葉に出すと叶うと仰るIさまは、リハビリに取り組み元の職場に復職できたそうです。
そんなIさまが作成した句を書道が得意なスタッフが文字にし、ご利用者のみなさまで作ったアジサイとともに飾りました。絵にチャレンジした方のアジサイも作品に色を添え、華やかな壁絵が完成しました。「私も俳句やってみたい」と、梅雨をお題に俳句に取り組まれた方もいらっしゃいます。Iさまの句を中心に、様々な楽しい波紋がhanareに広がっています。
紫陽花が 笑顔の中に 園の中
みんなの笑顔がたくさんのhanareの中で紫陽花が咲いている――そんな光景を詠んでくださいました。そんなhanareでありたいと、Iさまの句に思いを深くするスタッフでした。最後にIさまの言葉から。
「人生一度きりだからね、いろいろなことを面白がる、これがいいんだ。人に恵まれて、いい方向にいっているよ」