2024.04.26あらたか
淡い薄紅色の花びらが、キラキラとあたたかな日差しを受けて青空を舞っています。
「雪みたいだね」と呟いて目を細める利用者さまの頬を、穏やかな風が撫でていきます。「ほんと、きれいですね」とお応えすると、見上げれば少し緑の葉がのぞくものの、まだまだ見ごろの桜が青空を背に咲き誇っていました。
ここは「hanare宝塚(小規模多機能型居宅介護)」からほど近い公園。ここには幹の太い立派な桜の木が二本あり、毎年この桜が咲くのを皆さまは心待ちにしています。花散らしの雨に耐えた桜の木の下で、ご利用者の皆さまは連れ立ってお花見に来ているのです。
「あ、ツバメ」と短く声をあげたYさまの視線をたどると、2羽のツバメが青空を滑るように飛び回っています。「今年初めて見た」と少し興奮気味に話したYさまは、その後も繰り返し「はじめて見た」と嬉しそうに口にされました。
思い返せば去年の初夏、Yさまは散歩中にも「ツバメ飛んでるかな」とその場を動かずにツバメが来るのを待っていました。しかし、その時は残念ながらツバメの姿を見るができず、「また来ましょう」と施設に戻りました。その後、体調を崩され日中も傾眠されることが多くなり、好きだったかぎ編みをする姿も最近では見かけなくなっていました。
みんなでゆったりと桜を見上げていると、こどもたちの歓声が聞こえてきました。給食が始まっていない午後の公園は、小学生たちの憩いの場。男の子も女の子も走り回ったり輪になったりと、思い思いに午後の公園を楽しんでいます。その姿をほほえましく見つめていたYさまがふっと「私もあんな頃があった」とつぶやきました。その瞬間、穏やかにほほ笑む皺の刻まれたYさまに、未来を夢みて瞳を輝かせている幼いYさまが重なって見えたのです。
そう思ったとき、年齢も生まれも違うご利用者さま、スタッフたちが、一緒になって桜の木を見上げて笑いあう子どものように感じられました。ご利用者さまの人となりや過ごしてきたその時間に心を寄せ、ともに同じものを見る、そんな時間をhanare宝塚では大切にしていきたいと考えています。なぜならご利用者さまも私たちスタッフもかつてはみな等しく子どもだったのですから。
Yさまは「ツバメを見ると、春だなぁって思うでしょ」と笑います。
「来年もまた見に来ましょう」その言葉で、ゆっくりとベンチから車いすに移ったYさまは、にぎやかにおしゃべりをする子どもたちの横を通ってhanare宝塚に戻っていきました。4月の穏やかな日差しが私たちを包み込んでいきます。桜の花びらが惜しむように風にのって追い越していきました。