2023.11.29GOALZ

もう一度ダンスを踊りたい

いつもは利用者さまやスタッフの笑い声がひびく明るいフロアに、今日はゆったりとした艶やかな音楽が流れます。机を移動させたフロアは、きらびやかなダンスホールに様変わり。スタッフや利用者さまたちが見守る中、Mさまはお相手の男性の手を取り、ゆっくりと立ち上がられました。

「もう一度ダンスを踊りたいわ」とMさまが仰ったのは、スタッフが両手をとって支えながら歩いていたときでした。スタッフが見よう見まねのダンスを踊ると「あなた上手ねぇ」と仰り、その後も楽しかったダンスの思い出話をしてくれました。歳を重ねてから始めたというMさまの社交ダンスへの想いはその後も失われることなく、体調がすぐれないときでも、決まって「もう一度踊りたい」と……。

そんなMさまの想いを実現しようと開催したのが「hanare宝塚 ダンスパーティー」です。
「日本車椅子レクダンス協会宝塚支部」の方々にご来所いただき、当日はとても熱気にあふれるイベントとなりました。Mさまはもちろんのこと、他の利用者さまやスタッフも含めて皆で馴染みの曲に合わせて手をとり、体を揺らし、笑い合いました。座って行う「レクダンス」の後は、いよいよ「社交ダンス」です。

最近のことを覚えるのが難しくなっている中でも「ダンスは月曜日ね」と楽しみにしていたMさまですが、実はこのイベントを企画してから体調不良が続き、数度の転倒を経て、最近では車椅子での移動が多くなっていました。

立って踊るのは無理かもしれない――と、車椅子に乗車してのダンスを提案していましたが、いざ皆の前に出られ相手の男性の手をとると、Mさまは自然にご自身で立ち上がられたのです。驚いたのはスタッフで、慌てて後方から支えに入りましたが、私たちの心配は無用でした。
ルンバの曲に合わせてご自分の足でステップを踏み、なんと一曲を踊り切ったのです。後方から支えたスタッフの話では、支えもほとんど不要だったそうです。真剣な表情でお相手の足の動きを見つめステップを踏みかえる姿は真剣そのもの。曲が静かにおわりを告げると、踊り終えたMさまは満面の笑みを浮かべておられました。しかし、それだけでは終わらないのがMさまで、「じゃあ次、あなたやりなさいよ」と他の利用者さまに声をかけてくださったのです。遠慮されていた方もMさまのお声掛けで初めてステップを踏み、たくさんの方が社交ダンスを楽しむことができました。

記憶が遠ざかり、体の状態が思うようにならなくなっても、「やりたい」という想いがご自分の力となり、また周りを笑顔にさせる渦となる――。その想いが持つ力に利用者さまの果てない可能性を感じ、スタッフ一同心を動かされた一日となりました。