2023.10.12GOALZ

そうだ、京都鉄道博物館に行こう

今回、GOALZを利用されたAさまは、失語症や高次脳機能障害を抱えながらも、ご家族と協力しながら社会復帰を目指しておられる方です。社会復帰への道は、我々が想像する以上に大変な努力と辛抱が必要です。その過程で私たちは冷静かつ同じ熱量でAさまに伴走しながら関わってきました。

そんなある日のこと――。
私が息子と「京都鉄道博物館」で購入したボールペンにAさまは興味を示され、その話題からAさまが並々ならぬ鉄道への情熱と関心をお持ちだったことを知ったのです。同時に私は「京都鉄道博物館」に行ったことがないAさまをお連れしたいという熱い思いが沸き起こり、GOALZのサービスをご提案してみました。

ところが、私自身が言語聴覚士であることから、Aさまの身体状態の確認や介助方法に不安があり、「teon垂水(訪問看護)」や「ARC東垂水(通所介護)」のスタッフの協力も必要でした。そこで杖歩行と電動車椅子の使用時に、自身がどの位置に立つことで介助しやすくなるのか、また転倒などの緊急事態に対処する方法などを聞いて、AさまとGOALZ企画を慎重に進めていきました。

そして、待ちに待った当日。私たちは「京都鉄道博物館」まで電車を利用することにしたのです。当然、目的地まで車で移動することも可能でしたが、Aさまには出発点から楽しんでほしいという思いが私にはありました。
電車内では、普段見ない風景や駅名標を眺めたり、またそれらを携帯カメラで抑えたりと、心から楽しんでくださっているように見えました。到着後も、携帯電話の充電が午前中に尽きるほど鉄道の写真を撮り続け、私からの質問にも豊富な知識で熱心に教えてくださいました。途中、ストレスや脳の負荷が高まることでメンタルや言語機能の低下が心配されましたが、Aさまは“全力で楽しむ”ことに振り切っていただけているように見受けられました。

今回、ご家族と一緒に企画をすり合わる中で、「“楽しむ”ことだけの目的で、外出することが随分なかったような気がする」というお言葉が印象に残っていました。社会復帰への努力はとても素晴らしいことですが、時には肩の力を抜いて気分転換をしていただきたい――私たちであればそのお手伝いができますし、社会復帰後も周囲の協力があれば、できないことや不安なことでも実現できるということを知っていただきたいと思いました。