2022.11.10GOALZ

暮らしに「色」を求めて神戸北野異人館へ

コロナ禍になってから体力面だけではなく、認知機能の低下も著しく現れはじめたN様。
少しでも気分転換になることはないか――と考えていたところ、昨年、N様から「冬になったら神戸北野異人館(うろこの家)によじ登るサンタクロースが見たいの」と仰っておられた言葉を思い出したのです。

ただ以前にも同じようにしてGOALZ企画をご提案したのですが、その際は一般のガイドヘルパー(障害者移送介護従事者)による介助移動の利用金額と比較されて断念されたという経緯がありました。確かにガイドヘルパーは公的なサービスになるため費用は安いといえます。けれども、電動車椅子を使用している方の利用は対象外となってしまうため、N様のような方々は利用できません。時期的にサンタクロースは見られないという点と費用面の課題……それでもN様は「異人館に行きたい」と――。そのお声を聞いて私たちは準備を進めることにしました。

実際、北野異人館周辺は急な坂道や階段が多いため電子車椅子の移動は危険です。そこで私たちは電動機能をOFFにして手動で移動することにしました。ところが、異人館に到着すると、もう一つの問題が浮かび上がってきたのです。

異人館は古い建物でもあることから、車椅子などのバリアフリーが整っていません。「風見鶏の館」には表玄関入口に階段があり、保有の階段昇降車椅子に乗り換えることができれば、一階のみの見学が可能ということでした(オフィシャルサイトには掲載されていません)。しかし、室内用の車椅子へ移乗するためには、自力で数段昇る必要があるため断念せざるを得ません。さぞかし、がっかりされたと思います。
それでも「風見鶏の館」や「萌黄の館」の重厚な煉瓦造りの外観を眺めながら、笑顔でお散歩を楽しんでおられました。そして記念にお土産として風見鶏の形をしたステンドグラスのキーホルダーを購入され、その後は「北野工房のまち」まで足を運び、ウインドーショッピングも喜んでいただけました。

たった一日でも「特別な日」をご提案したことで、その後、N様の様子に大きな変化がありました。休みがちになっていたARC舞多聞(通所介護)にも顔を出してくださるようになり、平行棒を使った歩く練習や隣の方との会話も見られるなど、以前のような明るさや意欲を取り戻されたのです。

数年前まで出来ていたことが出来なくなってしまうのは、とても悲しい――この言葉は、多くの利用者さまからお聞きします。N様も同じで、ガイドヘルパーによる介助があれば外出を楽しめていたのに、電動車椅子が必要不可欠となった今ではそのサービスも使えず、暮らしに「色」がなくなってしまったと、そう感じられていたかもしれません。それだけではありません。今回のように、バリアフリーの整備が不十分なところもまだまだ多く、弱者の方々が外出することに不安を覚えるのは当然です。
私たちは身体的なサポートを担うのはもちろんですが、たとえ出来ないことが増えてしまってもやりたいことを諦めず、また我慢しないで私たちに頼っていただき、不安要素を取り除きながら実現して差し上げる必要があると再確認できました。